生成AI時代の資産運用、投信データ整備の遅れが課題に
投信データの構造化遅れ
連続起業家で、金融機関向けのAI活用支援を手がけるセマンティックベース(東京・中央)の野口哲代表は、投資信託だけが生成AIの資産運用サービスから外れかねない状況に懸念を示す。背景にあるのは、5800本強に上る投信データの大半がXBRL化されていないことだ。
資産運用各社は金融庁の電子開示システム(EDINET)に投信情報を開示しているが、ファンド名や貸借対照表、損益計算書などに限られ、信託報酬率や組み入れ銘柄、純資産額の推移といった主要項目は比較可能な構造化データになっていない。生成AIが日本の投信データを読み込んでも適切に扱えず、事実と異なる情報をもっともらしく返すハルシネーションの原因にもなる。投資対象企業の「配当金」と、投信から顧客に支払われる「分配金」を取り違える例もあったという。
AI前提の整備へ
こうした遅れの背景には、業界が投信のデータを単純比較され、優劣をつけられることを嫌ってきた経緯がある。大手銀行傘下の運用会社で社長を務めた経験者は「データ整備はコストだ。コストを上回るメリットを示せなければ、提案しても合意できなかった」と話す。
ただ、生成AIの広がりで環境は変わりつつある。三菱UFJ銀行は5月、家計簿アプリを運営するマネーツリーの金融データインフラを使い、「Apps in ChatGPT」を提供すると発表した。利用者は接続中の口座や残高、今月の支出を尋ねるだけで、グラフや表を通じて金融行動を把握できる。
3メガバンクを含む計28社も、AIで個人の資産運用を支援する取り組みを始めた。投信などの検索から比較、購入契約までをAIとの対話で完結させる構想だ。ただ、一部の投信データだけをXBRL化したままでは、利用者に最適なポートフォリオは組みにくい。今後、どこまでXBRL化を進めるかが焦点となる。
米国では投信のリスク・リターンに加え、保有資産明細もXBRL化されている。一方で、AIによる運用推奨が投資助言や投資一任に当たる可能性を巡る議論は、日米共通の課題だ。セマンティックベースは、未整備の投信データを構造化したうえで金融機関の大規模言語モデル(LLM)に統合する取り組みを、大手ネット証券や運用会社などと進めている。野口氏は「デジタル版の投信EDINET」を目指すとしている。
日銀の資金循環統計によると、日本の家計金融資産は3月末で2386兆円だった。このうち株式・投資信託は563兆円と、1年間で3割弱増え、保険・年金などの584兆円に迫る。投資が家計に根付きつつあるなか、AIを使った投資の個別最適化を進めるには、AIが読み取りやすいデータ整備が欠かせない。
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