ITエンジニア報酬、AI代替で上流は上昇 下流は急落
上流工程と下流工程で差拡大
人工知能(AI)による業務代替の広がりが、IT(情報技術)エンジニアの報酬格差に表れ始めた。2022年以降、AIに置き換わりにくい業務では単価が2割上昇した一方、自動化が進みやすい下流工程は5割下がった。海外で先行する雇用縮小が日本でも動き出し、働き手にはスキル再構築が求められている。
日本経済新聞はIT人材サービスのレバテック(東京・渋谷)の協力を得て、企業がフリーランスのITエンジニアに提示した約11万件の報酬単価を分析した。求人動向は企業の採用動向を映す先行指標となる。米オープンAIの対話型AI「ChatGPT」の登場前にあたる22年4月を100として指数化した。
コード生成で置き換え進む
ITエンジニアの仕事は、顧客の要件を整理して基本設計を担う「上流工程」と、コーディングやテストを担う「下流工程」に大別される。上流工程の代表例であるプロジェクトマネジャーの単価は26年5月に2割上昇したのに対し、下流工程の代表例であるHTMLコーダーは5割下落した。
この差は25年以降、いっそう目立つようになった。コード作成の大半を生成AIに任せる「バイブコーディング」の広がりと時期が重なる。レバテックの仲介件数でも、上流工程は5倍超に増えた一方、AIの影響を受けやすい下流工程は約3割減少した。
レバテックのリクルーティングアドバイザー、芦野成則氏は「米アンソロピックの『Claude Code(クロードコード)』など、コード生成に特化したAIの精度が飛躍的に高まり、労働力の置き換えが加速している」と指摘する。26年以降は、コーディングを担うエンジニアの採用を取りやめる企業も増え始めている。
関係者との調整や交渉を伴う上流工程は、短期的にはAIに置き換えにくい。顧客企業に常駐し、AI導入を支援する「フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)」という新しい職種も広がっている。
IT業界はなお人手不足が続き、エンジニア需要は底堅い。芦野氏は「AIを使いこなしながら、より良い成果を出せる人材への採用意欲が高まっている」と話す。
担当業務と昇進でも格差
AIを使いこなせるかどうかは、今後のキャリア形成を左右する。日経がレバテックの協力を得て20〜50代のITエンジニア572人に実施したアンケートでは、65%が「AIスキルに応じて今後年収格差が拡大する」と答えた。
すでに職場で生じているAI格差については、「担当できる業務範囲」が51.3%で最多だった。「評価や昇進スピード」も39.5%に上った。
アプリ開発のフェンリル(大阪市北区)では25年秋、同じAIツールを使う約20人のエンジニアのコード生成量に最大700倍の差が出た。AIの使い方や業務への組み込み方によって、生産性が大きく変わる実態が明らかになった。
AIを使いこなして高い生産性を示した41歳の男性社員は、その後、社内の重要プロジェクトのリーダーに起用された。クラウドネイティブ技術部の前垣内健太郎部長は「AI活用力はITエンジニアの必須スキルになる」と述べる。
国際労働機関(ILO)は25年の報告書で、ソフトウエア開発を生成AIの影響を大きく受ける職業の一つに位置づけた。ITエンジニアに起きている変化は、AI時代の労働市場を映す先行例ともいえる。ホワイトカラー全般でも、AIを使いこなせるかどうかが人材価値を左右しつつある。
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