155円接近なら介入後の円高局面でドル買い戻しも
政府・日銀による円買い介入を見込む市場参加者が増えている。対ドルで1ドル=155円前後まで円高が進めば、すかさずドル買いに動く構えだ。介入で進む円高は一時的にとどまり、その後は足元を上回る円安が続くとの見方が強まっている。
介入後の円高は一時的
「円高に傾く理由がなかなかない」。朝日生命保険の内村伸明資産運用企画部長はこう話す。同社は、為替介入などで1ドル=155円近辺まで円高が進んだ場合、外債投資でかけている為替ヘッジを一部外す方針だ。ヘッジを解消すれば、ドル買い・円売り要因になる。
円安は海外資産の評価益を押し上げる。長期的に円安が進む確度が高いとみるなら、介入などで一時的に円高へ振れた局面でヘッジを外す方が利益を狙いやすい。「(日米の短期金利差に基づく)ヘッジコストがなくなれば、日本国債よりも米国債の利回りが高く投資妙味がある」と内村氏は指摘する。
円安継続観測が優勢
対ドルの円相場は8日のニューヨーク外国為替市場で162円70銭台を付け、9日の東京市場でも162円台で推移した。トランプ米大統領がイランとの停戦について「終わった」と述べたこともあり、1日に付けた39年半ぶり安値の162円84銭に近づいている。
4月30日の介入直前の160円72銭を大きく上回る円安水準となるなか、市場では「次の介入は不意打ちになるのではないか」との警戒が広がる。来週公表される消費者物価指数(CPI)や卸売物価指数(PPI)など米経済指標が弱ければ、最近のドル高が修正されるとの見方もある。
機関投資家だけでなく、輸入企業も円安・ドル高の巻き戻しに備えている。「157円近辺を指定した輸入企業のドル買い・円売りの注文が多い」。顧客企業の動向に詳しいりそなホールディングスの井口慶一シニアストラテジストは明かす。
4月の為替介入では、160円から155円までの値幅は5円にとどまった。輸入企業が実際にドルを買えたのは157円近辺だったという。「このとき以上の円高はないとの見方が圧倒的に増えてしまった」と井口氏はみる。
オプション市場にも円安警戒
介入で一時的に円高が進んだ後に一段の円安が待つ――。こうした見方は、通貨オプション市場にも表れている。
円の対ドル取引で、売る権利であるプットから買う権利のコールを差し引いたリスクリバーサルを見ると、満期1カ月物は4月末の介入以降、マイナス1%台半ばから後半での推移が続く。円のコール需要が強い状態が続いていることを示す。ディーラーやヘッジファンドなど短期勢が、介入などによる急な円高・ドル安に備えているとみられる。
一方、満期が長くなるほどこの傾向は薄れる。1年物は今週、円安警戒を示すプラス圏に浮上した。2022年11月以来、3年8カ月ぶりとなる。SBIFXトレードの斎藤裕司エグゼクティブ・アドバイザーは「中東情勢が不透明ななか、エネルギー企業が為替の円安リスクだけでも抑えたいと考えている」と話す。
ドルの対ユーロ取引の通貨オプション市場でも、1年物リスクリバーサルはドル高警戒に傾く。三菱UFJ信託銀行資金為替部の酒井基成マーケット営業課課長は「米景気の強さを背景に、市場参加者が長期のドル高に備えている面もありそうだ」と指摘する。
最近は、160円を超える円安・ドル高が続くと予想する金融機関も相次ぐ。米ゴールドマン・サックスは7月に入り、1年後の見通しを165円に引き上げた。従来予想は155円で、10円の円安方向修正となる。
同社は「拡張的な財政政策や日銀の利上げが緩やかななかでは引き続き下落圧力が強い」と分析し、円買い介入の効果は限定的とみる。
4月末の介入以降、円相場はほぼ一本調子で下落してきた。6月以降は年内の米利上げ観測がドル高圧力を強めたほか、日本政府がまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案が日銀の利上げをけん制しているとの見方も円安を後押しした。
「高市政権の政策が転換しない限り、円安の修正は難しい」。大手生保幹部はこう語り、市場には諦めにも似た空気が漂う。
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