接種率低下で世界のはしか拡大が再び鮮明に
世界でワクチン離れが進み、感染症の再拡大が目立っている。新型コロナウイルス禍後も接種率は回復せず、はしかの流行国は2024年に59カ国と22年の1.6倍に増えた。公衆衛生の弱体化は、経済成長の下押し要因にもなりかねない。
はしかと接種率低下
はしかの原因である麻疹ウイルスは感染力が極めて強い。同じ空間に感染者がいれば、免疫を持たない人はほぼ100%感染するとされる。肺炎や中耳炎などの合併症に加え、脳炎で重症化することもある。
予防にはワクチン接種が欠かせない。感染拡大を防ぐ集団免疫の維持には95%以上の接種率が必要とされる。国連児童基金(ユニセフ)によると、コロナ禍前の19年には84カ国・地域が1回目接種でこの水準を上回っていたが、24年は69カ国に減った。
感染症全般に広がる低下
コロナ禍では外出制限の影響で、他のワクチン接種を控える動きが広がった。医療機関ではコロナ対応に人員が割かれ、接種や治療の体制が圧迫された。ほかの感染症が一時的に抑え込まれたことで、接種の必要性を低く見る人が増えた面もあるとみられる。
世界保健機関(WHO)によると、はしかは新興国ではインドやインドネシアで増加した。先進国でも英国やカナダで感染が広がり、「はしか排除国」の認定から外れた。
米国では25年に2200件超の感染が確認され、26年は5月1日までにすでに1800件を上回った。特に接種率の低いフロリダ州やサウスカロライナ州などで流行が目立つ。日本でも5月8日時点の感染者数は462件に達し、26年分は25年通年の265件を既に上回った。国内の1回目接種率は10年代に95%以上を保っていたが、24年度には92%と08年度以降で最低となった。
長崎県では18年度の99%から24年度に87%まで低下した。県担当者は、メーカーの製造トラブルなどでワクチン流通が混乱したことが大きな要因だと説明している。
信頼低下と政策の影響
はしか以外でも接種率の低下は広がる。ジフテリア、百日せき、破傷風の混合ワクチンは、24年の接種率が世界の全地域で10年以降のピークを下回った。結核予防のBCGワクチンは中南米で24年に88%となり、10年比で約7ポイント低下。中東やアフリカでも2ポイントほど落ち込んだ。低所得国ではコロナ禍の混乱が尾を引くうえ、紛争の影響も大きいとみられる。
ワクチン忌避の広がりも逆風となっている。米保健指標評価研究所のエミリー・ハウザー氏は「高所得国の多くでワクチンへの信頼が損なわれている」と指摘する。日本の厚生労働省担当者も、はしかワクチンの接種率低下について「ワクチンへの否定的な印象の拡大も一因」とみる。
トランプ米政権は、ワクチン懐疑論者のケネディ氏を厚生長官に起用している。ケネディ氏は25年6月、予防接種に関する諮問委員会の全メンバーを解任した。疾病対策センター(CDC)は26年1月、ロタウイルス胃腸炎やB型肝炎を含む6種類の子ども向けワクチンの推奨を撤回した。
米保健指標評価研究所のジョナサン・モッサー氏は、ジフテリアなどを念頭に「接種率が数ポイント下がるだけでも流行は起こり得る」と警告する。コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)が示したように、感染症は経済にとって無視できないリスクだ。
日本で新型コロナが感染症法上の「5類」に移行して3年が経過した。大西洋航行中のクルーズ船内ではハンタウイルス感染も発生した。新旧の感染症に備える重要性は、なお変わっていない。米国のWHO脱退などで国際協調は揺らいでおり、危機は静かに広がりつつある。
この記事が役に立ったら、ぜひシェアしてください。