米原油在庫が大幅増、原油先物は下落 中東の供給リスクが下値支え
13日午前10時10分ごろ(日本時間)、公開されている取引所の遅延データによると、2026年9月限のNYMEX・WTI原油先物は1バレル=82.06ドル、2026年10月限のICE北海ブレント原油先物は87.75ドルだった。いずれも観測時点で下落していた。
米商業用原油在庫の大幅な増加が相場を圧迫する一方、中東の供給途絶リスクはなお相当程度織り込まれている。在庫増は製油所の原油処理量急減ではなく、輸入増と輸出減の影響が大きい。今後の焦点は、ホルムズ海峡を通る実際の海上輸送が持続的かつ検証可能な形で正常化するかどうかである。
足元の原油市場動向
遅延データではWTI、北海ブレントとも下落
CME Groupの遅延データでは、2026年9月限WTI原油先物は1バレル=82.06ドルで、表示上の変化幅は1.21ドル安、下落率は1.45%だった。ICEでは、2026年10月限北海ブレント原油先物が87.75ドル、表示上の騰落率はマイナス1.305%となっていた。
両銘柄は同じ1分間に観測され、いずれも下落方向を示した。市場は海上輸送を巡る不透明感が残るなか、直近で上乗せされたリスクプレミアムの一部を縮小していた。
ただし、WTIのページでは該当欄に前回清算値が示されず、ICEのページにはドルベースの変化額が掲載されていなかった。このため、表示された騰落幅・率を、清算値に基づく前日比として独立に検証することはできない。
米商業用原油在庫は1,740万バレル増
米エネルギー情報局(EIA)によると、8月7日終了週の米商業用原油在庫は、米戦略石油備蓄(SPR)を除くベースで前週比1,740万バレル増の4億2,440万バレルとなった。クッシング在庫は160万バレル増加し、全米の在庫増のうち1,470万バレルをメキシコ湾岸が占めた。米原油生産量の推計値は日量1,380万5,000バレルと、おおむね横ばいだった。
もっとも、週間フローデータを見ると、在庫増という弱材料には重要な内訳がある。原油輸入は日量114万バレル増の733万9,000バレルとなる一方、輸出は日量62万7,000バレル減の305万8,000バレルに落ち込んだ。製油所の原油処理量は日量1,717万9,000バレルへ小幅に増え、製油所稼働率も96.2%と高水準を維持した。今回の在庫増は、製油所の原油処理量の急減ではなく、輸出入フローの大幅な変化に伴うものだった。
石油製品在庫は原油ほど緩んでいない
ガソリン在庫は100万バレル減の2億870万バレルとなり、過去5年の同時期平均を約6%下回った。留出油在庫も10万バレル減の1億710万バレルで、5年平均を約12%下回っている。
原油在庫の増加は原油側の需給を圧迫するが、石油製品の在庫は相対的に引き締まっている。供給の限られる製品の存在は、精製マージンを支える要因となる。
原油市場の分析
ホルムズ海峡の制約が短期的な下値を支える
EIAの8月版「Short-Term Energy Outlook」は、ホルムズ海峡の通航が8月を通じて厳しく制限され、9月以降も輸送量の回復は緩やかにとどまると想定している。この前提に基づき、EIAは世界の石油在庫が第2四半期に日量420万バレルのペースで取り崩されたと推計。第3四半期も平均で日量380万バレルの在庫減になると予測している。
北海ブレント現物価格は第3四半期に平均約85ドルとなった後、輸送量の改善に伴って第4四半期には78ドルへ下がるとの見通しである。
米国の週間原油在庫が一度大幅に増えれば、期近物には下落圧力がかかり得る。ただし、それだけで世界的な物流制約が解消したとは判断できない。反対に、主要通航ルートが持続的に再開し、中断している域内生産が回復すれば、短期的なリスクプレミアムの重要な部分が剥落する可能性がある。したがって、交渉を巡る報道だけでなく、実際の輸送を示すデータがより重要となる。
中国の原油処理減少が需要面の重荷
中国の最新の公式生産統計は8月ではなく6月が対象である。一定規模以上の工業企業による原油処理量は6月に前年同月比17.7%減少し、2026年上期では前年同期比4.9%減となった。一方、中国の原油生産量は比較的安定しており、6月は前年同月比0.5%減だったものの、上期では0.9%増加した。
世界最大の原油輸入国で製油所需要の弱さが示されたことは、供給途絶による上昇圧力を相殺する重要な材料である。この統計だけでは8月の消費ペースを判断できないが、中国の買い付けが供給途絶や輸送先変更に伴う原油を全面的に吸収するとの想定には、より強い裏付けが必要になる。
二段階の相場観は共通、正常化の速度で見方が分かれる
主要機関は、短期的な供給制約の後に需給が緩む二段階の市場展開を想定しているが、転換の時期と規模については見方が異なる。
- ING Researchのウォーレン・パターソン氏とエワ・マンセイ氏は、米国とイランの交渉が停滞し、供給途絶が続けば、短期的なリスクは上振れ方向に傾くとみる。また、中間留分の需給逼迫により、北半球の冬にかけて軽油のクラック・スプレッドが季節的に高止まりする可能性があると指摘した。
- J.P. Morganのナターシャ・カネバ氏は、北海ブレント原油が第3四半期に平均86ドル、第4四半期に80ドルとなり、年末には78ドルに下がると予測している。この見通しは、特に中国での需要減少と、予想を下回る経済協力開発機構(OECD)の在庫取り崩しが、引き続き相場の重荷になることを前提としている。
- OCBC Global Markets Researchは、四半期末ごとの予測値ではなく、より長期にわたる下落経路を示している。北海ブレント原油は2026年9月に80ドル、同年12月に75ドル、2027年9月までに69ドルへ下がるとの見通しである。深刻な供給ショックが後退し、需給緩和が再び表面化することを前提としている。
各見通しに共通するのは、短期的な供給途絶が価格を高止まりさせ得る一方、輸送、生産、在庫が正常化すれば相場の重心は下がるという点である。見解が分かれるのは、正常化がどの程度早く進むか、また需要がすでに恒久的にどの程度失われたかである。
需給バランスを変える条件
ホルムズ海峡の通航量と域内の積み出し量について、検証可能なデータで持続的な増加が確認されれば、短期的な供給リスクを根拠とする強気材料は弱まる。
米商業用原油在庫の大幅増が続き、輸出入の変動ではなく製油所の原油処理量低下を伴う場合は、下落方向がより強く裏付けられる。反対に、海上輸送の再度の中断、追加の生産停止、石油製品在庫の一段の減少が起きれば、リスクプレミアムが長期化する可能性は高まる。
原油市場の注目チャート
米商業用原油在庫が直近週に急増
米商業用原油在庫は7月下旬まで比較的狭い範囲で推移していたが、8月7日終了週には4億2,441万バレルへ急増した。増加幅と在庫が積み上がった地域を踏まえると、見出しとなった在庫増を解釈するうえで、輸出入フローの変化が特に重要である。出典:米エネルギー情報局(EIA)「Weekly Petroleum Status Report」。
米戦略石油備蓄は6週連続で減少
米戦略石油備蓄の原油在庫は、報告された6週間のすべてで減少し、8月7日時点で2億9,869万4,000バレルとなった。商業用在庫と戦略備蓄が反対方向に動いており、短期的に市場で利用可能な原油を評価する際には、両者を合算すべきではない。出典:米エネルギー情報局(EIA)「Weekly Petroleum Status Report」。
まとめ
原油相場の短期的な下値は、中東からの輸送制約、米石油製品在庫の低さ、高水準の製油所稼働率に支えられている。一方、米商業用原油在庫の大幅増、中国の原油処理量減少、輸送ルートと生産の段階的な回復を前提とする予測が上値を抑えている。
最大の不確実性は、地政学リスクの有無ではなく、それが実際の原油供給にどの程度影響しているかである。検証可能な通航量、域内の積み出し量、次回の米在庫統計が、足元の下落が輸出入フローに起因する一時的な反応なのか、より広範な需給緩和の始まりなのかを見極める材料となる。それが明確になるまでは、相場は短期的な供給リスクと中期的な需要見通しの弱さの間で方向感を欠く展開が続く可能性が高い。
参考資料
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CME Group, Crude Oil Futures Quotes, 2026年8月13日観測の遅延気配値。
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ICE Futures Europe, Brent Crude Futures Pricing, 2026年8月13日観測の遅延気配値。
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米エネルギー情報局(EIA), Weekly Petroleum Status Report, 2026年8月7日終了週、8月12日公表。
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米エネルギー情報局(EIA), Short-Term Energy Outlook, 2026年8月11日公表。
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中国国家統計局, Energy Production in June 2026, 2026年7月15日公表。
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ING Research、ウォーレン・パターソン、エワ・マンセイ, The Commodities Feed: Oil higher as US-Iran deal hopes fade, 2026年8月11日。
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J.P. Morgan Global Research、ナターシャ・カネバ, Oil prices forecast: What's next for oil in 2026 and beyond?, 2026年7月16日。
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OCBC Global Markets Research, Research Monitor, 2026年8月3日。
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