米イランの攻撃停止で原油は反落、現物需給と海峡通航にはなお不安
前週末の国際原油相場は、米国とイランの交渉再開への期待から5営業日ぶりに反落した。週明けも双方の攻撃停止を受けて安く始まったが、ホルムズ海峡の船舶通航量は低水準にとどまり、現物市場の供給不足も続いている。本日は具体的な予定が示されておらず、中東情勢と海上輸送の回復状況が引き続き焦点となる。
足元の原油市場動向
原油は5営業日ぶり反落、週ベースでは3週続伸
前週金曜日の国際原油相場は、パキスタンが米国とイランの交渉再開を後押ししているとの情報を受け、取引時間中に急落した。5営業日続伸に終止符を打ったものの、週間では3週連続の上昇となった。
WTI原油は一時5%下落し、1バレル=88.11ドルまで値を下げた。終値は同2.05%安の90.89ドルだったが、週間では10%超上昇した。ブレント原油は1.85%安の93.16ドルで取引を終えた。
週明けも、米国とイランが報復攻撃を見送ったことで、中東のエネルギー供給途絶への懸念が後退し、原油相場は大きく下放れて始まった。ただし、現物市場では供給不足が続いており、地政学リスクプレミアムが短期間で解消するとは限らない。
米イランの攻撃停止で緊張緩和、海峡の安全には不透明感
トランプ米大統領はイランへの空爆停止を命じ、イラン側も対等な措置として報復攻撃を停止した。イラン政府高官筋は、米国が停戦状態を維持する限り、イランも攻撃を停止すると述べた。サウジアラビアのメディアによると、イラン側は交渉から離脱しておらず、ジュネーブの複数の場所で米国との協議を続ける用意があるとしている。
イランは、ホルムズ海峡の海運管理を巡るオマーンとの協議で進展があったと説明した。カタール運輸省も、7月26日からあらゆる種類の海上輸送と船舶の航行を全面的に再開するとしている。
もっとも、海峡の安全が回復したことを示す材料は乏しい。イランメディアは、ホルムズ海峡でタンカー1隻が機雷に接触し、爆発したと報じた。足元の船舶通航量も再び1桁台に低下しており、外交面で緊張が緩和しても、航路の安全確保や海上輸送の正常化には至っていない。サウジアラビアは、多国籍軍がイエメンのフーシ派を攻撃したことも確認した。
ロシアの石油製品輸出規制で供給圧力が継続
ロシアはガソリンの輸出禁止措置を2026年末まで延長した。ウクライナによるロシアの石油インフラへの攻撃が続き、精製能力が低下するなか、ロシア国内では燃料不足と価格上昇が広がっている。このため、自国市場への供給を優先せざるを得ない状況にある。軽油の輸出はすでに制限され、航空燃料とガソリンも同様の規制対象となってきた。国内情勢の一段の悪化を防ぐため、石油製品の輸入も検討されている。
中東の石油輸送ルートとロシアの精製システムが同時に圧迫されていることは、供給網全体の不安定さを示す。原油が市場に流入する経路は残っているものの、影響を受ける国々がこうした圧力をどこまで吸収できるかが焦点となる。
米国では、高温を理由にエネルギー省が17州を対象とする電力網の緊急事態命令を発令した。本日の原油市場に関して具体的な予定は示されておらず、米イランの攻撃停止が維持されるか、ホルムズ海峡の通航量と保険コストが改善するかが次の判断材料となる。
海外市場の見方を踏まえた原油相場分析
本章では、海外金融機関や市場関係者の見解を参考にしながら、原油相場に対する主な見方を整理する。各見解は、公開情報をもとにRYOEXリサーチチームが要約・再構成したものであり、特定の機関や人物がRYOEXの見解を支持・推奨するものではない。
市場アナリストのフィル・フリン氏|ロシアの精製能力低下が供給網を圧迫
フィル・フリン氏は、ウクライナによる石油インフラへの攻撃でロシアの精製能力が大幅に低下し、モスクワが石油製品の輸出規制を導入せざるを得なくなったと指摘した。国内の燃料不足と価格上昇を受け、ロシアは自国向けの供給を優先しており、石油製品の輸入まで検討しているという。
主要エネルギー輸出国による輸出制限は、外部からの圧力が経済に影響を及ぼしていることを示す。こうした経済的負担が政策判断の見直しを促し、ロシアを和平交渉に近づける可能性もあるという。ロシア大統領府は、ウクライナ紛争の解決に向けた米国の新たな案を待つ姿勢を示しているが、直近の交渉後も慎重な態度を崩しておらず、急速な進展を期待できる状況ではないとした。
フリン氏は、製油所の損傷や石油製品の輸出制限、戦争に伴うエネルギーコストの増大により、プーチン政権が従来の戦略を維持するための負担が増していると分析した。中東の輸送ルートとロシアの精製システムが同時に圧迫されるなか、関係国が供給網への衝撃をどこまで吸収できるかが重要になるとの見方である。
市場アナリストのスティーブン・イネス氏|原油高の長期化はインフレ判断を複雑化
スティーブン・イネス氏は、原油価格の上昇は、ガソリン価格や航空・運輸企業の運営費、製造業の物流費を通じて世界経済に急速に波及すると指摘した。供給ショックが長引けば、中央銀行は幅広いインフレ期待への波及を警戒せざるを得ないという。
原油価格が持続的に下落すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)、イングランド銀行、日本銀行が今週の政策会合を控えるなか、短期的なインフレ圧力は弱まる可能性がある。FRBが政策を変更する可能性は低いものの、足元の原油高により、比較的平穏とみられていた会合での判断は複雑になったとした。
エネルギー価格の上昇が一時的であれば、中央銀行は一過性の要因として看過できる。しかし、賃金や企業の価格設定、インフレ期待を変えるほど長期化すれば無視できない。原油価格の下落はFRBに一定の余地を与えるものの、会合後の声明などにおけるエネルギー価格への言及から、政策当局がインフレリスクの後退を見込んでいるのか、次のショックまでの一時的な小康状態とみているのかを見極める必要があるとした。
市場アナリストのジェームズ・ハイアーシク氏|持続的な調整には現物輸送の改善が必要
ジェームズ・ハイアーシク氏は、金曜日には一つの材料が売りを誘ったが、月曜日には別の材料だけで買いが戻る可能性があると指摘した。市場シグナルが錯綜するなか、最も重要なのはタンカーの通航状況だという。
ホルムズ海峡の航行が正常化し、保険コストが低下するとともに、サウジアラビア産原油が迂回せず紅海を通過できるようになれば、弱気派にとって明確なファンダメンタルズ上の根拠になるとした。反対に、新たなタンカー攻撃や米国による大規模な軍事行動があれば、買いが直ちに戻る可能性がある。紛争が新たな国に広がらなくても、すでに圧迫されている二つの輸送ルートへの制約が続くだけで、原油価格の支援材料になり得るという。
WTI原油とブレント原油はいずれも前週、重要な上値抵抗線を上回って取引を終えた。WTIは主要な高値を試す局面にあり、上抜ければスイングトレンドが上昇に転じる。ブレントも直近の主要高値に近く、テクニカル面での予測目標は現在価格を大きく上回っているとした。
供給制約が続く限り、原油価格には上値余地が残るとの見方である。持続的な調整には、現物輸送の改善を裏付ける材料が必要であり、それまでは、週間で10%超上昇したことによるポジションの偏りと利益確定売りが主な下押し要因になると分析した。
市場アナリストのアナンド・クリシュナムルティ氏|攻撃停止で供給不安とインフレ懸念が後退
アナンド・クリシュナムルティ氏は、米国とイランがともに報復攻撃を行わなかったことで、中東のエネルギー供給が途絶するとの懸念が和らぎ、原油価格が下落する一方、債券価格は上昇したと説明した。
ブレント原油は一時7.4%急落して1バレル=90ドルを割り込んだ後、下げ幅を縮小した。米国は約2週間続いたイランへの空爆を停止した。13日連続で攻撃した後、前週金曜日遅くから軍事行動を控えているとみられるが、その理由は説明されておらず、トランプ大統領の次の行動を巡る臆測が残っている。イラン軍も日曜日、軍事的対応を停止したと表明した。
緊張緩和を受け、米国債に加えて欧州の債券先物とアジア太平洋地域の国債も上昇した。米10年国債利回りは4ベーシスポイント低下して4.64%となった。中東紛争時に安全資産として選好されていたドルは、主要10通貨すべてに対して下落した。
中東情勢を背景とする原油高は7月に入って進み、予想を下回った米国の6月消費者物価指数による好材料を相殺した。市場では、原油高でインフレ懸念が強まった後、FRBが水曜日に利上げするかが注視されている。人工知能分野への巨額投資に対する疑問が再び強まるなか、大手テクノロジー企業の決算も待たれている。
東海東京インテリジェンス・ラボの平川昇二氏|攻撃停止が交渉への期待を高める
東海東京インテリジェンス・ラボのグローバル・チーフ・ストラテジスト、平川昇二氏は、紛争の解決は前向きな進展になると述べた。双方が攻撃を停止したことで、米国とイランが交渉に入るとの期待が高まったとの見方を示した。
Evercore ISIのクリシュナ・グハ氏|FRBの利上げ確率は低いが排除できず
Evercore ISIの中央銀行戦略責任者、クリシュナ・グハ氏は、FRBが利上げする可能性は高くないと分析した。ただし、ウォーシュ氏が政策方針を明確に説明していないため、利上げ確率を過度に低く見積もることもできないとの見方を示した。
原油市場の注目チャート
本章では、足元の原油相場を読み解くうえで参考となるチャートを取り上げ、需給環境や市場心理の変化を整理する。掲載するチャートやデータは第三者機関の情報をもとにしたもので、RYOEXの見解や将来の価格動向を示すものではない。相場急変の可能性も踏まえ、十分なリスク管理を心がけたい。
米国の石油掘削リグ総数
7月24日までの1週間における米国の石油掘削リグ総数は、前週の452基から450基へ減少した。長期的にみると、2026年3月の米イラン衝突発生後に急増し、その後は高水準でもみ合っている。
当初の急増は、高い原油価格と精製利益を受け、シェール企業が遅れて設備投資を拡大したことを示す。直近では450基へ小幅に減少しており、資本規律と高い精製コストの制約を受け、生産能力の拡大が引き続き慎重に進められていることがうかがえる。急激な過剰投資には至っていない。
北米シェールオイルが世界的な供給不足を補うペースは依然として緩やかであり、追加的な供給回復の鈍化が原油価格の上昇を抑える可能性は低いとみられる。夏季需要がピークを迎えるなか、リグ数の小幅な減少は供給の弾力性を抑え、供給の硬直性と在庫確保の動きが相場の下値を支える要因となっている。
ホルムズ海峡の船舶通航量
最新データによると、ホルムズ海峡を通過する船舶数は、直近数日で再び1桁台に低下した。トランプ大統領が週末にイランへの空爆停止を命じ、イランも対等な措置として攻撃を停止したものの、海峡の通航状況に実質的な改善はみられない。
イランメディアは、タンカー1隻がホルムズ海峡で機雷に接触し、爆発したと報じた。この事案は、外交面での緊張緩和への期待だけでは、航路を直ちに復旧できないことを示している。機雷除去と航路の安全確保には長期間を要し、状況が再び悪化する可能性もある。
海峡の通航停滞が続く限り、原油相場の支援材料は残る。現物供給網への不安が解消されていないため、地政学リスクプレミアムも短期間では後退しにくい。
CFTC原油先物ポジションの変化
米商品先物取引委員会(CFTC)の最新データでは、WTI原油の非商業部門で買い建玉が増加する一方、売り建玉が減少し、ネットポジションは明確に回復した。投機資金の動きと原油価格が同じ方向に進む構図となっている。
週末の米イランによる攻撃停止を受け、週明けの原油価格は大幅に下落した。ただし、市場の先行的な期待や資金の動きだけでは、現物供給の不足という制約は解消できない。現物在庫の減少に加え、石油産業のサプライチェーン全体で在庫が低水準にとどまるなか、短期的な弱材料を消化した後も、需給の逼迫と地政学情勢の不安定さを背景に、原油相場は底堅さを保ちながら広いレンジで推移すると見込まれている。
まとめ
原油相場は、米国とイランの攻撃停止や交渉再開への期待を受けて反落したが、週間ではWTIが10%超上昇し、国際原油価格は3週続伸となった。外交面では緊張緩和の兆しがある一方、ホルムズ海峡の船舶通航量は1桁台に低下し、タンカーの機雷接触も報じられている。ロシアの精製能力低下と石油製品の輸出規制、現物市場の供給不足、北米シェールの慎重な増産姿勢も、相場の下値を支える要因である。今後は、米イランの攻撃停止が維持されるかに加え、海峡の通航状況、保険コスト、現物在庫が実質的に改善するかが焦点となる。
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