原油供給に三重のリスク、過熱感を伴いながら上昇続く
木曜日の国際原油相場は、紅海でのタンカー攻撃と米軍によるイランへの攻撃継続を受けて急伸した。WTI原油は一時8%上昇し、終値でも90ドルを上回った。ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡に加え、カザフスタン産原油の輸出停滞も供給不安を強めている。本日は米国の7月PMI速報値と石油掘削リグ稼働数が焦点となる。
足元の原油市場動向
原油価格は急伸、紅海情勢と対イラン攻撃が供給不安を増幅
木曜日の国際原油相場は大幅に上昇した。WTI原油は寄り付き後から上げ幅を広げ、1バレル=90ドルを突破。取引時間中には一時8%高となり、終値は6.78%高の92.79ドルだった。ブレント原油は4.7%高の94.92ドルで取引を終え、9月限は100ドルを上回って引けた。
相場上昇の直接的な要因は、紅海でのタンカー攻撃と、米軍が12夜連続でイランを攻撃したことだ。トランプ米大統領は、イランに対する大規模な軍事作戦の再開を「真剣に検討している」と述べ、決定が近いことを明らかにした。イランは交渉を望んでいるものの、まだ準備が整っていないとしたうえで、「受けた痛みはまだ十分ではない」との認識も示した。フーシ派が再び船舶を攻撃した場合には、イランの責任を追及する考えも示している。
米国はB-1爆撃機を配備し、イランへの攻撃を強化した。これに対し、イラク首相はイラン訪問時、イラク領内からイランを脅かす行動を起こすことは認めないと表明した。また、米国がサウジアラビアに対し「アブラハム合意」への署名を迫り、応じなければ核合意を無効にすると圧力をかけていることも伝えられた。
ホルムズ・紅海・CPCの供給リスクが重なる
中東の原油輸送を巡っては、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の双方で通航が制限されるリスクが意識されている。海上輸送が滞れば、タンカーの到着遅延に加え、戦争保険料や運賃の上昇を招き、足元の現物需給が引き締まる可能性がある。
これに加え、カザフスタン産CPCブレンドの輸出減少が第三の供給リスクとして浮上している。CPCはロシアのノボロシースク港を利用しているが、安全上の懸念から船主が寄港を拒み、積み込みが停滞している。代替輸送ルートの能力も不足しており、中東の主要海峡を巡る通航リスクと重なる形で供給懸念を強めている。
石油製品市場でも需給の逼迫が鮮明になっている。米国の3対2対1クラックスプレッドは7月22日に1バレル=70ドルと過去最高を記録し、その後やや縮小したものの、歴史的な高水準にある。ディーゼル価格も上昇しており、原油だけでなく石油製品も不足する構図が原油相場の下値を支えている。
増産観測と需要見通しは上値を抑える要因
供給不安が相場を押し上げる一方、OPECプラスの増産観測や需要見通しは弱材料となり得る。関係筋によると、OPECプラスは8月2日の会合で、9月の生産枠を日量約18万8,000バレル引き上げる可能性がある。
EU外交官によると、EU各国の代表は第21次対ロシア制裁案を巡り、ロシア産石油の価格上限を12カ月間据え置くことで合意した。軍事・輸送面のリスクが高まるなか、こうした政策や産油国の供給方針も市場の焦点となっている。
米PMI速報値と石油掘削リグ数が焦点
本日は、日本時間22時45分に米国の7月S&Pグローバル製造業・サービス業PMI速報値が発表される。日本時間翌日2時には、7月24日までの週の米石油掘削リグ稼働数が公表される予定だ。地政学情勢や海上輸送の変化に加え、米国の景況感と供給動向を示す両指標が相場材料となる。
海外市場の見方を踏まえた原油相場分析
本章では、海外金融機関や市場関係者の見解を参考にしながら、原油相場に対する主な見方を整理する。各見解は、公開情報をもとにRYOEXリサーチチームが要約・再構成したものであり、特定の機関や人物がRYOEXの見解を支持・推奨するものではない。
アナリストのクリストファー・ルイス氏|供給途絶下では買われ過ぎが続く可能性
クリストファー・ルイス氏は、中東での衝突に沈静化の兆しが見られない限り、原油価格には大幅な上昇リスクが残ると指摘する。市場は個々のニュースに極めて敏感であり、現時点では和平につながる材料が乏しいとの見方だ。とりわけ、ホルムズ海峡の封鎖リスクが引き続き最大の焦点だとしている。
ブレント原油が急速に1バレル=100ドルへ接近するなか、この水準ではオプション市場の節目や心理的な抵抗に加え、過去に重要な支持線・抵抗線として意識された経緯が上値を抑える可能性がある。このため、もみ合い局面で100ドル付近から小幅に反落しても不自然ではないという。
市場はすでに買われ過ぎの状態にあるものの、大規模な供給途絶が懸念される環境では、過熱感が一段と強まることも考えられる。中東情勢が沈静化しなければ、短期的な価格調整は押し目買いの機会と広く受け止められやすいと分析している。足元の値動きは、市場が供給不足を予想していることの表れだとの見方である。
ザイ・キャピタル・マーケッツのナイーム・アスラム氏|上昇の主因は地政学的な供給プレミアム
ザイ・キャピタル・マーケッツの最高投資責任者、ナイーム・アスラム氏は、今回の上昇は世界の燃料消費が急速に改善したためではなく、地政学的な供給プレミアムの拡大によるものだと分析する。トランプ米大統領によるイラン核施設への強硬な攻撃警告、米国の継続的な軍事介入、紅海での輸送中断に対する報復の可能性、イランを巡る追加措置が、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の双方に圧力がかかるとの懸念を強めたとしている。
いずれかの航路で輸送が制限されれば、タンカー輸送の遅延や保険料・運賃の上昇を招き、足元の現物需給が引き締まる可能性がある。エネルギーコストの上昇は、輸送や製造業を通じて消費者物価にも波及し得る。
軍事的緊張の激化によって輸出や海上輸送路が実質的に阻害されれば、原油価格は100ドルに向けて上昇を続ける可能性がある。反対に、交渉の兆しやイランによる生産の継続、海上輸送の安全回復、世界需要の低迷は、地政学的プレミアムの一部を縮小させ、相場を押し下げる要因になるという。
OPECは最新見通しで、2026年の世界石油需要の伸び予想を日量約78万バレルへ下方修正した。減産に参加する産油国が日量18万8,000バレルの増産を計画していることも、紛争主導の上昇相場に対する弱材料になるとアスラム氏はみている。国際エネルギー機関(IEA)によると、6月の世界供給は日量410万バレル回復して9,880万バレルとなったが、紛争前の水準をなお日量約940万バレル下回っている。
HSBCのキム・フスティエ氏|ホルムズ海峡の通航回復が最大の焦点
HSBCのシニア・グローバル石油・ガスアナリスト、キム・フスティエ氏は、6月中旬の米国とイランの了解覚書による一時的な沈静化が終わり、原油市場の強靱性が再び試されていると指摘する。ブレント原油は数週間前に70ドル近辺まで下落したが、足元では再び90ドルを上回っている。
7月7~8日以降、イランがホルムズ海峡を通過する船舶を攻撃し、米国が報復攻撃を実施したことで、停戦の枠組みは徐々に崩れた。焦点は、海峡の通航を誰が管理するのか、また8月中旬までの60日間の交渉期間内に予測可能な輸送秩序を回復できるかにある。
最近のホルムズ海峡の通航量は4~5月の低水準まで減少し、一部の日では通過船舶数が1桁にとどまった。通常と比べて約90%少ない。直近6日間の液体エネルギー輸送量は日量200万バレル未満で、6月の日量600万バレル超、7月初めの日量1,000万バレル超を下回っている。
HSBCは、フーシ派によるサウジアラビアの紅海経由輸出の封鎖脅威について、市場が過大評価している可能性を指摘する。バブ・エル・マンデブ海峡にリスクが生じても、関連インフラに余剰能力があるため、一部の原油はスエズ運河とSUMEDパイプラインを通じて北向けに輸送できるという。ただし、アジア向けの航海距離が延び、洋上での積み替えや小型タンカーの利用が増えるため、輸送コストは上昇する。
域内ではホルムズ海峡を迂回するパイプラインの建設が進んでいるが、既存設備と計画中の設備を合わせた最大輸送能力は日量約1,100万バレルにとどまる。通常時にホルムズ海峡を通過する日量1,900万~2,000万バレルを完全に代替することはできない。外交によって正常な通航が回復しなければ、原油価格とHSBCのブレント原油予想には明確な上振れリスクが生じるとしている。
スタンダードチャータード銀行のエミリー・アシュフォード氏|二つの海峡がサウジ輸出を圧迫
スタンダードチャータード銀行のエネルギー調査責任者、エミリー・アシュフォード氏は、中東の原油輸送リスクがホルムズ海峡だけの問題から、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡が並存する「二重の要衝リスク」へ発展したと分析している。
フーシ派がサウジアラビア関連船舶のバブ・エル・マンデブ海峡通過を阻止すると威嚇しているため、サウジの東西双方の主要輸出ルートが影響を受ける可能性がある。サウジはホルムズ海峡を迂回するため、紅海沿岸のヤンブー港からの積み出しを日量約450万バレルへ引き上げた。スエズ運河を南向きに通過する輸送を含めると、現在は日量約700万バレルの石油がバブ・エル・マンデブ海峡を通過している。
紅海のリスクはサウジの輸出に限られない。紅海、スエズ運河、SUMEDパイプラインは、欧州とアジアを結ぶ最短の海上輸送ルートを構成する。ただし、大型のVLCCは満載状態ではスエズ運河を直接通過できないため、通常はスエズマックス型タンカーに積み替えるか、エジプトのアイン・ソフナで荷揚げしてSUMEDパイプラインへ移送する。
紅海の安全情勢が大幅に悪化すれば、戦争保険料が一段と上昇し、喜望峰を迂回する船舶が増える可能性がある。航海距離と燃料消費が増え、タンカーの船腹需給が逼迫するほか、到着の遅れや運賃上昇につながる。
アシュフォード氏は、海上輸送リスクが続く限り、原油の輸送コストも上昇し続けるとみている。輸出能力が大幅に制限されれば、サウジアラビアは最終的に再び減産を迫られ、輸送上の問題が実際の供給縮小へ発展する可能性があるという。
原油市場の注目チャート
本章では、足元の原油相場を読み解くうえで参考となるチャートを取り上げ、需給環境や市場心理の変化を整理する。掲載するチャートやデータは第三者機関の情報をもとにしたもので、RYOEXの見解や将来の価格動向を示すものではない。相場急変の可能性も踏まえ、十分なリスク管理を心がけたい。
ブレント原油の先物・現物価格差が米・イラン戦争後の最大水準
ブレント原油先物は木曜日の米国市場で急伸し、1バレル=100ドルを突破した。現物価格との価格差も拡大し、米・イラン戦争の勃発後で最大となった。足元の市場逼迫が5月の水準を上回っていることを示している。
CPCブレンドの輸出量が減少
カスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)のブレンド原油輸出は日量約170万バレルで、EUの原油輸入の約15%を占める。しかし、ロシアとウクライナによる無人機攻撃が供給基盤を揺るがしており、安全上の懸念から船主がノボロシースク港への寄港を拒み、積み込みが停滞している。代替輸送ルートでは不足分を補えない状況だ。
上流生産も打撃を受け、テンギス油田の生産量はほぼ半減した。7月22日時点で、カザフスタン全体の生産量は日量207万バレルから163万バレルへ急減している。減産によって地中海市場の原油価格差は拡大したが、カザフスタンは輸出自体が困難なため恩恵を受けにくく、地政学とインフラの両面における脆弱性が表れている。
米国のクラックスプレッドが過去最高を更新
米国の3対2対1クラックスプレッドは7月22日に1バレル=70ドルへ上昇し、過去最高を記録した。その後は小幅に縮小したものの、依然として歴史的な高水準にある。
クラックスプレッドは石油製品と原油の価格差を示す。過去最高への上昇は、市場の中心的な問題が単なる原油不足から、原油と石油製品の双方が不足する状態へ移ったことを示している。精製設備が能力の限界近くまで稼働しており、原油供給が回復しても、石油製品の逼迫解消には時間を要する可能性がある。
米国のディーゼル価格が大幅上昇
AAAによると、米国のディーゼル価格は7月23日時点で1ガロン=5.209ドルまで上昇した。クラックスプレッドの高止まりと合わせ、石油製品市場が原油市場に先行して上昇していることを示す。
精製能力の構造的な不足は、原油価格を支える追加的な要因となっている。精製面のボトルネックが解消しない限り、ディーゼル価格とクラックスプレッドは大幅に低下しにくく、コスト面から原油価格を支える構図が続く。石油製品市場は、原油供給危機に付随する要因から、原油相場を押し上げる独立した要因へと変化しつつある。
まとめ
原油市場では、紅海でのタンカー攻撃と米国による対イラン攻撃を背景に、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡の双方で通航リスクが強く意識されている。CPCブレンドの輸出停滞や石油製品市場の逼迫も重なり、買われ過ぎの状態にあっても供給不安が相場を支えている。一方、OPECプラスの増産観測や需要見通しの下方修正、外交による事態の沈静化や海上輸送の安全回復は、地政学的プレミアムを縮小させる要因となり得る。本日は日本時間22時45分の米PMI速報値と、日本時間翌日2時の米石油掘削リグ稼働数が焦点となる。
この記事が役に立ったら、ぜひシェアしてください。