原油、月間で30%近く上昇 早期停戦観測の後退で供給不安強まる

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前日の国際原油相場は、中東情勢の緊迫化を背景に上昇した。WTI原油とブレント原油はいずれも一時大幅高となり、月間上昇率は30%近くに達した。米国とイランの早期交渉への期待が後退する一方、ホルムズ海峡と紅海の双方で原油輸送が滞るリスクが高まっている。本日は、日本時間21時30分に米新規失業保険申請件数、23時30分に米エネルギー情報局(EIA)の天然ガス在庫が公表される予定だ。

足元の原油市場動向

原油価格は続伸、月間上昇率は30%近くに

水曜日の国際原油相場は、イエメンの親イラン武装組織フーシ派によるサウジアラビアの石油タンカー2隻への攻撃と、米軍によるイランへの攻撃継続を受け、一時3%上昇した。WTI原油は一時1バレル=89ドルを上回った後、上げ幅を縮小し、2.22%高の86.90ドルで取引を終えた。ブレント原油は90ドル台を回復し、1.47%高の90.67ドルとなった。

別の集計では、9月限ブレント原油が一時5%近く上昇して95ドルを突破し、終値は94.07ドルと6月8日以来の高値を記録した。4営業日続伸し、4日間の上昇幅は4月29日以来で最大となった。9月限WTI原油は3%近く上昇して86.83ドルで引け、一時88.61ドルと6月11日以来の高値を付けた。ブレント原油については、3.4%高の94ドルで取引を終え、一時95ドルに達したとの市場集計もある。いずれの集計でも、原油相場が約6週間ぶりの高値圏に上昇し、月間上昇率が30%近くに達した点は共通している。

米・イラン対立激化でホルムズ海峡の輸送リスク拡大

イラン当局者は、テヘランが交渉を求めたとするトランプ米大統領の発言を「全く根拠がない」と否定した。正式な交渉は行われておらず、双方の間にあるのは情報交換にとどまると説明している。ルビオ米国務長官は、外交的解決に応じる用意はあるものの、イラン側に誠意はなく、ホルムズ海峡の支配を試みる限り攻撃を続けるとの立場を示した。

米軍によるイランへの攻撃は11夜連続で行われ、その後の情報では12夜連続となった。米中央軍は、直近の作戦で航空機格納庫や海上作戦能力、無人機の保管施設を攻撃し、商船を襲撃する能力の低下を図ったとしている。イスラエルのメディアは、米国が今後数日以内に対イラン攻撃を強化する計画をイスラエル側に伝えたと報じた。英国はイラン駐在の外交要員を撤収した。

トランプ大統領は、イランがホルムズ海峡を通過する船舶への攻撃を続けた場合、船舶1隻への攻撃につき、イランの橋または発電所を1カ所破壊すると警告したほか、核施設への攻撃にも言及した。これに対し、イラン軍は、米国が威嚇を実行すれば湾岸地域の石油輸送を全面的に遮断し、域内の石油、天然ガス、電力、経済インフラを攻撃すると表明した。ホルムズ海峡周辺ではすでにタンカー3隻が攻撃を受け、船舶通航量はほぼ停止に近い水準まで落ち込んでいる。

紅海と黒海でも供給途絶への警戒続く

紅海では、フーシ派がサウジアラビアのタンカー2隻を攻撃したと発表し、同国に対する海上封鎖を宣言した。船主にサウジアラビアの港への寄港を避けるよう求めたほか、ミサイルや無人機を配備し、商船への攻撃を準備しているとも指摘されている。米国は、フーシ派が紅海の航行を妨げれば行動を取るとの姿勢を示した。

一部の船舶が航行を停止したり引き返したりする一方、通航を続ける船もあり、輸送と供給の先行きには不確実性が残る。フーシ派による封鎖宣言後、サウジアラビアのタンカー3隻はバブ・エル・マンデブ海峡の通航を断念し、スエズ運河経由へ航路を変更した。紅海は戦時下において、サウジアラビアがホルムズ海峡を迂回するための重要な輸出経路となっている。封鎖が長期化すれば、アジア向け輸送の所要時間とコストが大幅に増える可能性がある。

黒海沿岸では、カザフスタン産原油の大部分を輸出するカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)のターミナルへの攻撃が続いている。中東、紅海、黒海で供給途絶リスクが同時に高まり、原油相場に織り込まれる地政学リスクプレミアムが拡大している。

在庫増が緩衝材となる一方、供給余力は限定的

EIAによると、前週の米商業原油在庫は市場予想に反して200万バレル増加し、石油製品在庫も全般に積み上がった。短期的には供給不安を和らげる材料となる。ただ、中東産原油の不足を米国産原油で補う動きが強まるなか、今後は米国の在庫と輸出の推移が一段と重視される。

需給の逼迫は先物の期間構造にも表れている。ブレント原油とWTI原油の期近物間の価格差は、いずれも1バレル当たり3ドルを超えるバックワーデーションへ拡大した。通常は数セント程度にとどまるため、市場参加者が足元の供給に大幅な上乗せ価格を支払っていることを示している。

経済協力開発機構(OECD)の商業在庫は2月末の28億2,400万バレルから26億300万バレルへ減少し、米国の商業在庫も12億7,100万バレルから12億400万バレルへ縮小した。戦略石油備蓄は前週に510万バレル減少して3億1,140万バレルとなり、43年ぶり、かつ1983年以来の低水準に落ち込んだ。米国による対イラン制裁の再開や対ロシア制裁の適用除外終了に加え、サウジアラビアのアジア向け輸出を阻害しかねない紅海封鎖もあり、在庫を取り巻く環境は3月時点より大幅に引き締まっている。サウジアラビアの東西パイプラインが攻撃を受けた場合、日量500万バレルの輸出が脅かされるとの分析もある。

本日は、日本時間21時30分に7月18日までの週の米新規失業保険申請件数、23時30分に7月17日までの週のEIA天然ガス在庫が発表される。市場では、中東の石油輸送が正常化するか、米国産原油が供給不足をどの程度補えるかに加え、紅海と黒海の輸送・供給リスクが引き続き焦点となる。

海外市場の見方を踏まえた原油相場分析

本章では、海外金融機関や市場関係者の見解を参考にしながら、原油相場に対する主な見方を整理する。各見解は、公開情報をもとにRYOEXリサーチチームが要約・再構成したものであり、特定の機関や人物がRYOEXの見解を支持・推奨するものではない。

TDセキュリティーズ|極端な価格上昇に至るテールリスクが拡大

TDセキュリティーズは、イランが原油輸送への制限を強めるにつれ、原油価格が極端に上昇するテールリスクが高まっていると指摘した。ブレント原油が93ドルを突破したことで、トレンド追随型の資金も買いを再開したとしている。

エクイノールのトーグリム・レイタン最高財務責任者|低在庫で供給障害が価格に波及しやすい

Equinor ASAのトーグリム・レイタン最高財務責任者は、過去の局面とは異なり、現在は在庫が低水準にあり、明確な供給過剰も存在しないと指摘した。このため、実際に供給障害が発生すれば、価格に急速に波及しやすいとの見方を示した。

バーンスタイン|紛争長期化なら年末までに100ドル突破も

バーンスタインは、中東紛争が続き、OECDの商業在庫が一段と減少した場合、ブレント原油が年末までに1バレル=100ドルを突破する可能性があると予想した。

ゴールドマン・サックス|100ドル台回復は選択肢の一つ、基本シナリオではない

ゴールドマン・サックスは、原油価格が再び100ドル台に上昇する可能性があるとみている。ただし、これは同社の基本シナリオではないとしている。

XTBのキャスリーン・ブルックス氏|原油高がインフレと家計を圧迫

XTBのリサーチ責任者であるキャスリーン・ブルックス氏は、ブレント原油の週間上昇率がすでに10%を超えたことで、世界の中央銀行によるインフレ抑制が難しくなると指摘した。家計のエネルギー支出も増え、年後半の可処分所得を圧迫する可能性があるという。紛争激化に伴い、世界の供給網とインフレを巡るリスクが高まっているとの見方を示した。

TradeStationのデービッド・ラッセル氏|エネルギー危機ではないが供給見通しは脆弱

TradeStationのグローバル市場ストラテジー責任者であるデービッド・ラッセル氏は、市場が直ちにエネルギー危機に陥ったわけではないものの、現在の供給見通しは依然として脆弱だと指摘した。「痛みは和らいだが、出血は続いている」と表現し、米商業原油在庫の増加だけでは供給リスクは解消されていないとの認識を示した。

ING|91ドル台のブレント原油は供給途絶リスクを十分に反映せず

INGのストラテジストであるウォーレン・パターソン氏とエワ・マンセイ氏は、トランプ大統領が即時交渉の可能性を排除したことで、米国とイランの早期停戦への期待が後退したと指摘した。米軍はイランに対する12夜連続の攻撃を終えたばかりで、フーシ派によるサウジアラビアへの海上封鎖宣言も海運会社の警戒を強めているという。

複数のタンカーがバブ・エル・マンデブ海峡を避けて航路を変更している。スエズ運河を通って紅海へ出入りする必要が生じれば、アジア向け航海の所要時間とコストが大幅に増える。CPCターミナルの停止が長引くほど、カザフスタンが上流部門の生産削減を迫られる可能性も高まる。CPC経由の6月積載量は日量約170万バレルだった。

INGは、ペルシャ湾での供給途絶再燃、紅海経由のサウジ産原油輸出を巡るリスク、黒海情勢を総合すると、1バレル=91ドル強のブレント原油は供給リスクを十分に織り込んでいないとの見方を示した。特に供給障害が8月まで続く場合、その傾向が強まるとしている。需給逼迫が緩和するには、中東の石油輸送が正常化し、中東とアジアの製油所が稼働率を引き上げられるようになることに加え、ウクライナによるロシア製油所への攻撃が弱まる必要があるという。

市場分析|停戦合意の解釈の相違が長期的な不安定要因

イランと米国が6月17日に署名した覚書は、双方で解釈が異なる曖昧な内容とされる。イラン側の文面では、イランが海上交通を監督し、船舶は北向き航路を使用するほか、60日後には料金を徴収できるとの意味になる。一方、米国側は無条件開放と解釈しており、船舶は南向き航路を利用でき、料金も徴収されないとしている。一方的な航路支配は国際法に反し、この文書は悪用されやすいとの分析が示されている。

同分析は、最終的に停戦が回復しても、安定が長続きする可能性は低いとみている。過去に原油価格が120ドル超から70ドルまで下落した背景には、潤沢な在庫、代替輸送ルート、非OPECプラス産油国の供給増、戦略備蓄の放出、制裁適用除外、制裁回避に使われる「影の船団」の拡大、需要破壊があった。しかし、現在は在庫が大幅に減少している。

イランにとってホルムズ海峡は、核計画を大きく上回る戦略的な影響力を持つとの見方も示された。米国の撤退は公然たる屈辱につながり得る一方、政権転覆には地上部隊と数カ月に及ぶ作戦が必要となり、原油価格を100ドルを大きく上回る水準へ押し上げる可能性があるという。11月の中間選挙までに情勢が根本的に変わる可能性は低く、原油価格は70ドル台から100ドル近辺までの広いレンジで推移し、レンジ上限に近づく可能性があるとの見方が示されている。

原油市場の注目チャート

本章では、足元の原油相場を読み解くうえで参考となるチャートを取り上げ、需給環境や市場心理の変化を整理する。掲載するチャートやデータは第三者機関の情報をもとにしたもので、RYOEXの見解や将来の価格動向を示すものではない。相場急変の可能性も踏まえ、十分なリスク管理を心がけたい。

EIA原油在庫は市場予想を上回る増加

7月17日までの週のEIA米原油在庫は市場予想を上回って増加し、先に公表された米石油協会(API)の在庫統計と同じ方向を示した。最近の在庫は増加と減少を交互に繰り返しており、今回の積み増しには製油所の原油処理量減少と純輸入の拡大が影響した。

もっとも、戦略石油備蓄は数十年ぶりの低水準にあり、WTI原油の受け渡し拠点であるオクラホマ州クッシングの在庫も低位が続いている。ホルムズ海峡の輸送がほぼ停止し、バブ・エル・マンデブ海峡も封鎖の脅威にさらされるなか、単週の在庫増だけで世界の需給構造が反転したとは判断しにくい状況だ。

ガソリンと留出油の在庫が予想外に増加

米ガソリン在庫は76万5,000バレル、留出油在庫は139万5,000バレル増加し、ともに市場予想を上回る積み増しとなった。製油所稼働率は96.1%と極めて高く、ガソリンの週間生産量も970万バレルに達している。需要の増加だけでは、大規模な生産を吸収し切れていない。

純輸入の拡大と戦略石油備蓄の放出が米国内の供給を増やしたほか、原油高が最終需要を徐々に抑えている。季節的には在庫減少が見込まれる時期の積み増しだが、需要崩壊ではなく、供給の強さと需要の弱さが一時的に重なった結果と位置付けられている。

米原油生産は小幅に減少

米原油生産は小幅に減少した。中東産原油の供給不足を米国産原油で補う動きが意識されるなか、生産の伸び悩みは供給余力を判断するうえで重要な変化となる。商業在庫が単週で増加しても、戦略石油備蓄とクッシング在庫が低水準にあるため、今後は生産、輸出、在庫の動きを併せて確認する必要がある。

米欧・アフリカの主要製油所3カ所が予期せず停止

米国、欧州、アフリカの主要製油所3カ所が、火災や高温下での過負荷運転などを理由に、相次いで予期せぬ操業停止となった。影響を受ける原油処理能力は、合計で日量100万バレルを超える。

このため、原油供給が回復しても、精製能力の制約によって石油製品の生産が抑えられる可能性がある。ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡で同時に通航リスクが高まるなか、地政学的な供給障害は、原油不足だけでなく精製能力不足も伴う構造へ変化している。石油製品市場の逼迫は、原油相場の下値を支える追加要因となっている。

まとめ

原油相場は、米国とイランの早期交渉への期待後退、ホルムズ海峡での船舶攻撃、フーシ派による紅海封鎖の脅威を背景に上昇し、月間上昇率は30%近くに達した。米国の原油・石油製品在庫の増加は一定の緩衝材となるものの、戦略石油備蓄の減少、低水準にあるクッシング在庫、CPCターミナルへの攻撃、主要製油所の停止は供給面の脆弱性を示している。市場では、中東の石油輸送が正常化するか、紅海と黒海の供給障害が8月まで続くか、米国の生産・在庫・輸出が不足分を補えるかが次の焦点となる。

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