原油の供給余力が歴史的低水準、ホルムズ海峡を巡る緊張が焦点
月曜日の国際原油相場は、米国とイランの協議再開への期待と、中東の航路を巡る供給懸念が交錯するなかで上昇した。WTI原油先物は1バレル=82.91ドル、ブレント原油先物は87.50ドルで取引を終えた。名目上の余剰生産能力や米国の在庫余力が歴史的な低水準にあるため、ホルムズ海峡とマンデブ海峡の通航状況が引き続き相場を左右する。本日は、日本時間21時15分に発表される米ADP雇用者数の週間変化などが焦点となる。
足元の原油市場動向
原油価格は上昇、停戦期待と航路不安が交錯
月曜日の国際原油価格は、日中に一時1%近く上昇した。WTI原油は高寄り後に下落基調となり、一時80ドル近辺まで値を下げたものの、その後は下げ幅を縮小し、前日比0.7%高の82.91ドルで取引を終えた。ブレント原油も0.86%高の87.50ドルで終了した。両油種は直近で、1カ月超ぶりの高値圏まで上昇している。
相場の上値を抑えたのは、米国とイランの外交協議が再開する可能性である。イラン側によると、仲介者は覚書の履行再開に向け、米国とイランに10日間の停戦を提案した。イラン外務省は提案を受け取ったことを確認し、国益に基づいて米国と交渉する可能性があると表明した。米メディアは、トランプ米大統領が最近の事態を巡ってイランに代償を払わせることを重視する一方、両国間の協議は続いていると報じた。
ホルムズ・マンデブ両海峡で船舶通航リスクが継続
外交への期待が残る半面、中東の海上輸送を巡るリスクは解消されていない。米国は、イランによるホルムズ海峡での船舶攻撃能力を標的に9夜連続で攻撃を実施し、中東への軍用機派遣も続けた。イランは従来の停戦合意から離脱すると表明し、ヨルダン、クウェート、バーレーンの目標を攻撃した。米軍が10夜目も対イラン攻撃を続けると発表した際、原油相場の反応は限定的だったが、緊張がさらに激化する可能性は残る。
イエメンのフーシ派はサウジアラビアに対する「海上封鎖」を宣言し、マンデブ海峡の閉鎖も警告した。サウジアラビア側は、同海峡の航行の安全を確保するために必要な軍事行動を取っていると表明した。マンデブ海峡は世界の貿易量の約12%を担っており、通航障害が長引けば、紅海と世界のエネルギー輸送への影響が拡大する可能性がある。
カスピ海パイプライン・コンソーシアムによると、7月20日にタンカーが再び攻撃を受けた後、短期間再開していた石油の積み出しは再度停止した。一方、イエメンは石油輸出を再開した。中東情勢が輸送に及ぼす影響が交錯するなか、米国のガソリン平均価格は1カ月ぶりに1ガロン=4ドルを上回った。
在庫と余剰生産能力の不足が相場の下値を支える
供給面では、ペルシャ湾からの原油輸出が戦争前の水準を長期にわたって下回り、ホルムズ海峡を通航するタンカーもイランの影響を受けている。米戦略石油備蓄は約3億1,950万バレルと、1983年以来の最低水準に近い。戦略石油備蓄を含む米国の原油在庫は、供給日数換算で約45日分にとどまり、長期平均の65日を大幅に下回る。新たな供給途絶に対する市場の耐性は低下している。
OPECプラスの名目上の余剰生産能力も日量約250万バレルと、歴史的な低水準にある。中東の産油国が増産しても、制限されている航路を迂回するのは難しい。このため、停戦への期待は時間をかけて相場に織り込まれる一方、新たな供給懸念が浮上すれば、リスクプレミアムが急速に上乗せされやすい状況にある。
世界の洋上輸送中の原油は約13億バレルと過去最高に達しているが、その大半は最終市場に届けられない「滞留在庫」とされる。ペルシャ湾内に滞留する浮体在庫だけでも約1億5,000万バレルに達する。ホルムズ海峡が閉鎖された状態では現物需給の逼迫緩和につながりにくいが、通航が正常化すれば、この供給が集中的に放出され、原油価格の下押し要因となる可能性がある。
米雇用指標とAPI在庫統計が焦点
本日は、日本時間21時15分に7月4日までの週の米ADP雇用者数の週間変化が発表される。日本時間翌日3時30分にはWTI原油先物の限月交代が行われ、同5時30分には7月17日までの週の米API原油在庫統計が公表される予定である。
海外市場の見方を踏まえた原油相場分析
本章では、海外金融機関や市場関係者の見解を参考にしながら、原油相場に対する主な見方を整理する。各見解は、公開情報をもとにRYOEXリサーチチームが要約・再構成したものであり、特定の機関や人物がRYOEXの見解を支持・推奨するものではない。
アナリストのジョシュア・ギブソン氏|供給余力の乏しさが非対称な値動きを生む
ジョシュア・ギブソン氏によると、米国はイランによるホルムズ海峡での船舶攻撃能力を標的に9夜連続で攻撃し、イラン革命防衛隊も関連航路への威嚇を続けた。ただ、米国は外交の扉を開いていると強調し、従来提案していたホルムズ海峡の20%通航料を棚上げした。日曜日に原油価格が約3%上昇していたこともあり、一部の買い持ち筋が利益確定に動き、価格は一時80ドルを割り込んだ。その後の急反発は、市場が下値を追うことにも慎重であることを示したという。
相場の流れを大きく変えたのは、トランプ米大統領によるイランへの報復発言だった。ヨルダンで米兵2人が攻撃を受けて死亡した後、トランプ氏は、米国人1人の死亡につきイランに数倍の代償を払わせるとして、軍に指示を出したと述べた。この発言後、原油価格は約2時間で2ドル近く上昇した。一方、米軍が10夜目も攻撃を続けると発表した際の反応は限定的だった。ギブソン氏は、市場がすでに織り込んだ軍事行動よりも、まだ現実化していない事態激化の脅威を重視していると分析した。
テクニカル面では、83ドルが短期的な最初の上値抵抗線となる。上抜けた場合は84ドルと85ドルが次の節目となる一方、下値では82ドルが最初の支持線で、心理的節目の80ドルが重要な下支え水準だとした。
Zaye Capital Marketsのナイーム・アスラム氏|航路制限が地政学リスクプレミアムを押し上げ
Zaye Capital Marketsの最高投資責任者であるナイーム・アスラム氏は、ブレント原油が一時90ドルに接近し、WTI原油が84ドルを上回ったと指摘した。米国とイランの衝突再激化により、世界の石油貿易の約5分の1を担うホルムズ海峡の輸送の安全に対する懸念が強まっているという。
船舶通航量の減少やタンカー保険料の上昇、原油・石油製品の輸出遅延リスクが、地政学リスクプレミアムの一段の上昇につながっている。産油施設、輸出ターミナル、主要航路が影響を受ければ、他の産油国が増産する前に、世界的な供給不足が生じる可能性があるとした。
軍事的緊張が緩和して船舶通航が正常化するか、供給途絶が一時的だと確認されれば、原油価格は下落する可能性がある。ただ、攻撃が続くか、ホルムズ海峡の通航が一段と制限されれば、ブレント原油は90ドルを上回る水準を維持し、100ドルに向かうリスクが高まるとの見方を示した。
サクソバンク|衝突激化と船舶通航停止がブレントを押し上げ
サクソバンクは、週末に米国とイランの衝突が一段と激化し、イランが一部船舶のホルムズ海峡通航を停止したことが、ブレント原油の上昇を促したと分析した。
JPモルガン|通航量は急減も長期封鎖は基本シナリオではない
JPモルガンの報告によると、ホルムズ海峡で回復し始めていた船舶通航量は突然停滞した。確認済みの石油輸送量は、1週間前の日量1,250万バレルから510万バレルへ減少した。このうち、イランの輸出が日量約170万バレルを占める。
同行は、ホルムズ海峡を巡る情勢が「交渉、決裂、激化、再交渉」の循環に入っていると分析した。軍事衝突は再び激化しているものの、両国は長期的な対立を求めているのではなく、圧力を通じて交渉を進めようとしている可能性が高いとみている。新たな停戦合意は依然として可能であり、双方による長期的な相互封鎖はテールリスクであって、基本シナリオではないとした。
CIBCプライベート・ウェルスのレベッカ・バビン氏|停戦観測がパニック的な買いを抑制
CIBCプライベート・ウェルスのシニアエネルギートレーダーであるレベッカ・バビン氏は、市場が外交ルートは完全には閉ざされていないとみており、停戦の可能性がパニック的な買いを抑えていると指摘した。強硬発言が後に弱められる展開に市場が慣れつつあるため、トレーダーは脅威だけを理由に上値を追うのではなく、実際の供給途絶を待つ傾向を強めているという。
前週には、買い持ちの積み増しと売り持ちの買い戻しで原油価格が大きく上昇しており、一部投資家による利益確定も上値追いを抑えた。ただし、米国の対イラン攻撃や軍用機派遣、イランによる停戦合意からの離脱、フーシ派によるサウジアラビアへの海上封鎖宣言などにより、下値余地も限られているとした。
スウェーデンSEB|持続可能な合意の難しさが長期化リスクを高める
スウェーデンのSEBは、9日間に及ぶ軍事攻撃を経て、米国とイランの衝突が新たな段階に入ったと分析した。従来の覚書は、復興基金、イラン産原油輸出の一時的緩和、凍結資産の一部解放を除けば、長期的な和平を支える実質的な内容に乏しく、双方は条項の解釈を巡って早期に戦闘へ戻ったという。
イランは、米国がイスラエルによるレバノンのヒズボラへの攻撃継続を阻止せず、イランとの調整なしに商船をホルムズ海峡南部の航路へ通航させようとしたことが、合意違反に当たると主張している。米国側は、イランがホルムズ海峡の通航を実質的に保障せず、代替航路を航行する船舶を攻撃したとして、イランへの空爆を再開した。
軍事・エネルギー面のファンダメンタルズは、前の段階から大きく変化していないという。米国は空爆だけで決定的な戦略成果を得ることが難しく、弾薬消費と国内政治上の制約にも直面する。イランは地域の米軍基地を攻撃する能力を維持し、ホルムズ海峡の管理、原油価格の上昇、在庫減少の加速を通じて、米国を再交渉に向かわせようとしているとした。
イラン経済も戦争による大きな圧力を受けており、一部予測では今年の国内総生産が10%減少する可能性がある。通貨安と貧困問題も悪化しているが、イラン指導部は不利な戦争以上に、不利な和平を警戒している可能性がある。体制の存続、利益配分、政治的な将来を保障しない合意は拒否される可能性があり、衝突長期化のリスクを高めている。
比較的楽観的なシナリオでは、軍事・財政・国内政治上のコスト上昇を受け、双方がイランに一定の影響力を残す形で、ホルムズ海峡の再開を受け入れる可能性がある。悲観的なシナリオでは、双方が政治的制約から持続可能な合意に至らず、誤算や誤解、さらなる事態の激化によって、海峡が長期間にわたり不安定な状態、あるいは閉鎖状態に置かれる恐れがあるとした。
原油市場の注目チャート
本章では、足元の原油相場を読み解くうえで参考となるチャートを取り上げ、需給環境や市場心理の変化を整理する。掲載するチャートやデータは第三者機関の情報をもとにしたもので、RYOEXの見解や将来の価格動向を示すものではない。相場急変の可能性も踏まえ、十分なリスク管理を心がけたい。
ホルムズ海峡の石油輸送量は日量1,000万バレル超減少
米国とイランの覚書失効後、ホルムズ海峡の石油輸送量は急減した。7月20日までのデータでは、同海峡を通過した石油・ガス輸送船は1隻にとどまり、ペルシャ湾からの原油搬出はほぼ滞った。ホルムズ海峡の通航制限が長期化すれば、現物供給の逼迫が一段と強まる可能性がある。
米国の原油在庫は供給日数換算で長期平均を大幅に下回る
戦略石油備蓄を含む米国の原油在庫は、供給可能日数で約45日分まで低下した。長期平均の65日を大幅に下回り、45年ぶりの低水準となっている。供給途絶が追加で発生した場合、在庫放出によって相場への影響を吸収する余力は極めて限られている。
洋上輸送中の原油は12億9,000万バレルに到達
世界の洋上輸送中の原油は12億9,000万バレルと過去最高に達した。ただし、その大半は航路制限により最終市場へ到達できない「滞留在庫」とされる。ペルシャ湾内の浮体在庫は約1億5,000万バレルに上り、現状では現物不足の緩和に寄与しにくい。その半面、通航が回復すれば、原油価格を大きく押し下げる供給要因となり得る。
ロシアが影のタンカー船団の主要な船籍国に
ロシア籍の影のタンカー船団は213隻に達し、2025~2026年に98隻が加わった。これらの船舶はアジアに代替原油の一部を輸送できるが、中東産原油の供給減少が日量1,000万バレル規模に達した場合、その不足を補うのは難しい。OPECプラスの名目上の余剰生産能力も日量約250万バレルにとどまり、実質的な供給余力は統計上の数字以上に乏しい。
まとめ
原油市場では、米国とイランの停戦・交渉観測が上値を抑える一方、ホルムズ海峡とマンデブ海峡の通航制限、低水準にある米国の原油在庫、OPECプラスの乏しい余剰生産能力が相場の下値を支えている。海峡閉鎖が長期化すれば、洋上輸送中の在庫や浮体在庫を消化した後に供給不足が深刻化する可能性がある。その半面、ホルムズ海峡が再開すれば、ペルシャ湾内に滞留する約1億5,000万バレルが価格の下押し要因となり得る。当面は外交協議と航路の回復状況に加え、日本時間翌日5時30分に発表される米API原油在庫統計が焦点となる。
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